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たわごと

たわごと

QCD

 なぜ日本のものづくりがガラパゴスになって通用しなくなったか。大きな原因はそのQCDにもあります。まずはQ(品質)についてお話ししましょう。先程も触れましたが、日本製品の品質はメーカーが勝手に決めています。でも品質は顧客が決めるもの。顧客は何によって品質を決めるかというと、購入価格で決めるんです。その証拠に100円ショップにはクレームが一件も来ません。私が日本に帰ってきたとき、家のある茅ヶ崎の駅前に100円ショップができていた。凄く便利で私もちょくちょくショベルなんかを買っているのですが、結構具合が良い。ただ、やっぱり3カ月ぐらい経つとぽきっと折れたりします。でも100円なら文句言わないですよね。ひょっとしたらクレーム処理をやっているかなと思い、実験も兼ねて聞きに行ったのですが(笑)、クレーム対応部門はなかった。何故かといえばクレームが一件もないから。お客さんは100円の品質ならこんなものだろうと思って買っているんです。それが3~4カ月で何かおかしくなっても、クレームをかける電話代のほうが高コストということになってしまう。それはお客さんが品質を決めているということですね。日本メーカーはここを忘れている。

 サムスンの品質に対する考えているのは、ボリュームゾーンの顧客と先進国市場の顧客では要求仕様が違うということです。自動車なら、ボリュームゾーンでは発進して、曲がって、止まればOK。そしてたくさん人が乗れるようにしたり、雨で濡れないような屋根がついたらもう立派な車です。しかし日本のエンジニアはそれを車と呼びません。ハンドルが堅いとか何だとか色々と言いはじめる。でもそれは、ボリュームゾーンの顧客が考える要求仕様と違っていれば過剰機能または過剰品質に過ぎないんです。

 品質についてもうひとつ。日本メーカーは足し算と引き算はできても掛け算ができないんです。たとえばコストは足し算ですから、「ここでいくら、そこでいくら。で、全部でいくら」と考える。逆にコストダウンはいくら倹約したかという引き算ですよね。しかし日本メーカーは品質も足し算だと思っているようです。ラインがあり、コンベアがあり、ひとつの工程を90秒で流していく。次の工程にはインライン検査を行って不良品を送り込まない。だから100の工程があったら100点満点の足し算になってしまう。こういう考え方だから先日の騒動でも「顧客が悪い」とか「フィーリングの問題」なんて言ってしまうんです。品質は掛け算ですから、仮に工場で100点でも、消費者が最後に消費品質という“0”か“1”を掛けるんですよ。プリウスもレクサスも最後にゼロを掛けられたから、トヨタの車は品質が悪いということになってしまった。品質は掛け算なんです。皆さんもこれは絶対に覚えておいてください。サムスンの場合は体感不良と言っていますが、クレームはすべて受け付けて直していきます。クレーム以前の不平不満も受け付けます。最初は不平不満であり、それ放っておくとクレームになるからです。自動車の場合はそれを放っておくとリコールになる。クレームが出てからリコールに至るまでの時間というのは、実は世界中ですべて測られているのですが、アメリカはフォードなどが4~5カ月に対して、日本の大手自動車メーカーは8~10カ月とか、18カ月とか。これは、自分でもの凄く技術を持っているから、かえってそういうことが起きるのですね。特にグローバリゼーションでは技術の過信は禁物です。

 C(コスト)についても同様です。日本人は100円の部品を5円下げるために血の滲むような努力をします。これは美意識でもありますよね。それ自体は良いのですが、グローバリゼーションでは全体算でコストを下げるしかない。無駄なものはつくらず、売れ筋をつくるということです。売れないものをつくらないというのは鉄則なんです。私は立ち食いそば理論と呼んでいますが、サムソンは消費をぜんぶ変えていきます。もちろん、インド用、中国用、パキスタン用、バングラディッシュ用、アメリカ用…、全部ゼロから変えていたら大変ですよね。だからここで立ち食いそば理論になる。立ち食いそばのお店ではうどんとそばのおつゆは同じです。知っていましたか?(笑) 私はうどんとそばで、つゆぐらいは違うだろうと思っていました。しかも注文を受けてから茹でているわけではありません。注文を受けてからは温めるだけで、実はあらかじめ茹でてある。そこから天ぷらそばやたぬきうどんに変わっていくんです。これは消費が違うからお客さんに選んで貰うということですよね。これを経済学でいうと、どこでカップリングを解くかということになります。これが高いほど利益率が高い。ところが日本はここがすべて手づくり。信州の信濃でさんざんお客さんを待たせて3,000円のそばですと言っている。お客さんが来てからそば粉を摘みにいったりするのが(笑)、良いとされているんですよ。それをすべて否定するわけではありませんが。

 D(納期)についても考えを改めないといけません。そもそもdeliveryを納期と訳すのがいけない。誰が訳したのか、本当に最悪の言葉です。納期というのはお客さんを待たせるということでしょ? 待たせたら絶対にだめ。もし訳すとすれば、顧客が要求するときに持っていくという意味での“タイミング”でしょうか。在庫が悪だというのは企業側の論理なんです。顧客視点で考えれば在庫は常に持つべきものです。例えば自動車メーカーで言えば、アメリカなどでは、自動車は朝買いに行ったら昼に乗って帰ります。在庫がなければ別のディーラーに行ってしまうからぜんぶ置いておくわけです。だから買取ではなく、売れないものはぜんぶ戻します。しかし、それがリーマンショックで一気に数百台の返品になってしまい、あのトヨタすら赤字になった。アメリカは日本のようなディーラー買取ではありませんから、ジャストインタイムなんて言わずにどんどん生産するんです。また、サムソンのD(納期)はアフターサービスについても徹底して顧客満足を大切にしています。たとえば冷蔵庫が故障したとするなら、そこで1日でも壊れたままなら本当はだめですよ。食品だって腐ってしまいますから。洗濯機だって、日本では故障するとコインランドリーに行けと言われてしまう。そういうことじゃないですよね。サムスンは1時間で直します。どうして1時間で直せるかは今日は時間がないので割愛しますが、日本の場合は1週間かかります。これはいけない。もちろんなかなか壊れないというのはありますが。
卵の殻は自ら破らねば鳥にはなれない
 最後に、今世界で何が変化しているのかを考えてみましょう。グローバリゼーションとデジタライゼーションというのが重要なキーワードですから、ぜひ皆さんも会社に戻ってから仲間とともに、国際化とグローバリゼーション、そしてアナログものづくりとデジタライゼーションの違いを議論して欲しいと思います。サムスンがやっていたのは、当初は「日本のものの国際化」と言っていました。しかし日本のものづくりをよく見てみると「日本のものは現地の要求に関係なくつくられているじゃないか」ということになった。日本で設計したものを、安い労働力を求めて海外生産しただけじゃないかということになったんです。これではだめですねと。それならサムスンは国際化からグローバリゼーションに移行しようとなった。サムスンが考えるグローバリゼーションの定義は、「市場として期待されるところに工場の拠点を置いて、その国の文化にあった地域密着型のものづくりをする」ということです。だから日本にはもう学ばないと決断したのが 98年。そこから急成長していきました。そのために人材育成に関して言えば、世界で70カ国ぐらいの語学を勉強し、地域専門家育成教育ということで1年間現地に派遣させるようにした。今では地域専門家がグループで4,000人近くいます。

 ここであるアンケート結果をお見せしましょう。経済産業省の資料によると、サムスンが狙っているのはアジア8カ国のなかでは「平均的生活層」の8億7千万人なんです。日本はここでほとんど負けています。でも、競争志向的で社会を牽引する価値観を持った「イノベータ層」、高級品や嗜好品を好む「趣味嗜好層」、あるいは外交的でのし上がる機会を探している「上昇思考層」も、それぞれ4億5千万人前後いるんです。これは「さ」と「性」が好きな人たちですね。日本はここを狙うべきです。サムスンは考え方がデジタルだから「さ」と「性」は弱い。現在韓国勢がとっている「平均的生活層」の市場で戦うのは止めたほうが良いでしょう。そのもう少し上の層を狙うべきです。こういった中間層の定義はこれまでなかったのですが、年間の可処分所得が5,000ドルから3万5,000ドルの人々を中間層といって、これはBRICsに6億3,000万人います。これまで日本が生産拠点としていた地域は、現在、消費国に変わっているんですよ。これは大きな変化でしょ? 3万5000ドルといったら日本の中間層にも近いですよね。ということは、世界には結構いるんです。日本の「さ」と「性」を好む人々が。

 今日は悲観的なこともかなりお話ししましたが、なんだかんだ言ってもひとりあたりのGDPを見てみると、現在の韓国の国力はまだ25年前の日本なんですよね。中国は38年前。38年前の日本では大阪万博をやっていました。中国は今ちょうど上海万博をやっていますから、そのぐらいの生活水準ということなんです。だから38年前に日本はどうやって商売していたか…、そんなことをちゃんと思い出しながら商売をしたほうが良いと私は思っています。

 私の論理では、韓国は何千年も繰り返して侵略と戦争に明け暮れていた国ですから、日本のように何十年先や百年先が見えていない。「この国は変わらないだろう」と言えないからこそ基礎研究ができないんです。だから基礎研究にはあまり投資しない。彼らが「隣に日本があって良かったね」というのはそのせいなんです。日本は基礎研究をやってくださいと。それを注意深く見ていて、製品になったら持ってきて、そこからキャッチアップをはじめる。一般的にものをつくるときは、まず要求機能を考えてから構造に落とし込むのですが、そこにはさまざまな制約条件が入ってきます。「いくらで」とか「いつまでに」といった要素以外にも、最近ではRoHS対応などの環境要素も重なりますから、それはもう複雑な連立方程式を解いているようなものになります。サムソンは日本がそれを解いたら、そこを一気にリバースする。そのままそっくりに安物部品で組み立てるのはコピーエンジニアリングと言って、これは中国産ですよね。韓国は進んでいるからさすがにそれはしない。ただ、日本が行った複雑な連立方程式の解から機能の引き算を行うんです。これは簡単な独立一次方程式。だからキャッチアップも早い。技術を学ばなくても、製品のキャッチアップが早いのはこのせいなんです。

 したがってこれからの日本は、まずはものづくりの組織能力とアーキテクチャをグローバリゼーションに適合させなければいけません。BRICsや NEXT11など、まだまだ市場はありますから、その制約条件に合ったものをつくっていくこと。中国なら芋が洗える洗濯機を出さなきゃいけないし、中近東ならお祈りのときにモスクを指してくれる携帯電話をつくらないといけません。競争力とは価格競争力だけではありません。顧客によって、デザイン、機能、性能、品質…、色々と消費は異なってきます。だからその消費に対して競争力があるか。一般的に競争力というのは製品で言えば、その製品が顧客に選ばれる力ですよね。でももっと抽象的に言えば、誰かが誰かに選ばれる力と言えます。日本は工場や現場が強すぎるし、それを「顧客のため」と言っているけれど、顧客は工場や現場で選んだりしません。会社で選ぶし本社で選ぶ。だから工場は本社に選ばれるんです。選ばれる力があるということが競争力なんです。

 また、競争力には裏の競争力と表の競争力があります。日本は裏の競争力は強いんですよ。肉体を鍛えに鍛えているから。でも肉体はお客さんに見えませんし、見せないでしょ?ところが値段や広告、あるいは利益率というものは見えますよね。これが表の競争力ですが、これが日本は弱い。これを見せるようにしていくべきです。私が韓国で住んでいたマンションでは、隣のおばちゃんがスーパーに行くとき、寝巻の上にミンクを着ていました(笑)。見ていると凄いんですよ。スーパーの店員もミンクを着ている人には丁重になる。私みたいにショートパンツとTシャツ姿はあっちにいけという感じでした(笑)。これは表の競争力の差によるものですよね。恐らく私のほうがお金は持っていたのでしょうが、それは裏の競争力だから見せないようにしていた。日本人にはそういうところがあるんですね。

 最後になりましたが、日本の企業はこれから産業構造の変化に合わせて大きく進化していかなければいけないと思います。「地球上に生き残った生物は強い生物ではなく、環境に最も適応した生物である」と、ダーウィンも言っています。危機の経営というのは、支配則にいち早く気付き、社会の要求や変化に素直に対応するということ。過去の成功体験、固定概念、惰性、利己主義、高慢さ…、これらが進化を妨げるんです。とくに高慢というか奢りですね。その殻を破らないといけない。高慢な卵の殻は人に割られると卵焼きにしかなりませんが、自ら破っていくと命を持った鳥になります。鳥になったらどんどん成長していきます。最後は食べられますが(笑)。ぜひ皆さんも殻を自分の力で割ってください。これが日本の生きる道だし、日本が産業構造の変化に対応した新しい競争力を育てていけば、必ず明るい未来が待っていると考えています。本日は長いあいだご清聴ありがとうございました。


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